Phase 3Dアップデート
JAMSAT

AR503(アリアン5型3号機)によるPhase 3Dの打ち上げなくなる

1998年6月18日



JAMSAT会員各位とアマチュア衛星に興味をお持ちの皆様へ

残念ながらAR503によるPhase 3Dの打ち上げはなくなりました。

しかし、Phase 3D チームは悲嘆にくれることなく、衛星の完成に向け全力を尽くしています。現時点で打ち上げの機会についてコメントする事は何もありません。今我々がすべきことは、忍耐強く、ひたすら前向きに次の機会を探していく事でしょう。このためにも衛星を完成させておかねばなりません。JAMSATのSCOPEチームも、RUDAKチームと協力して残された試験項目をこなしていきます。

Phase-3Dの打ち上げが延期された事で、AMSATにおいてもJAMSATにおいてもこれから苦しい時期に突入する事は間違いありません。皆様の変わらぬご支援をお願いいたします。

打ち上げの機会を確保するためのカールマインツァー博士の献身的な努力に感謝するとともに、これから始まる博士の困難な努力をJAMSATとしても見守り、支援してゆきたいと思います。

岡本
日本アマチュア衛星通信協会 会長
JA2PKI@amsat.org

参考:
AMSAT Phase-3D ラボは
http://www.magicnet.net/~phase3d/
JAMSAT Web は
http://www.jamsat.or.jp/
アリアンとPhase-3Dに関する情報はgo-arianeにもあります(英語)
http://www.go-ariane.com/
アリアン5ロケットについてはSpaceServerに日本語の解説があります
http://www.bekkoame.or.jp/~smatsu/ariane/arian5.html
アリアン5の1号機の事故についてもSpaceServerに日本語の情報があります
http://www.bekkoame.or.jp/~smatsu/ariane/index.html

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AMSAT-NA会長 ビル タイナンより

Date : Tue, 16 Jun 1998
T O : すべてのAMSAT-NAメンバーと、世界中のアマチュア無線衛星に 興味をお持ちの皆さんへ
From : ビル タイナン W3XO AMSAT-NA会長
Subject: Phase 3D 打ち上げに関する悪いニュース

すでに多くの方が Phase 3DはAriane 503には乗らないという悪い知らせをを耳にされたことでしょう。

これは確かに大変がっかりさせられるニュースではありますが、我々は衛星を試験し、打上げ可能な状態にしようとする現在の方針を堅持し継続して行かねばなりません。ここに我々はそのようにすると誓います。

状況については、今朝Phase 3Dプロジェクトリーダーであるカール マインツァー博士DJ4ZCから送られた次のメッセージに良く要約されています。

しかしその前に、いくつかの単語について説明をしておきます。

1. アリアンスペース社はアリアンの打ち上げを売るために作られた商業目的の会社です。

2. ESAは欧州宇宙機関であり、米国のNASAのようなものですが、多国籍機関であることが異なっています。

3. W1は欧州で作られた商業衛星であり、数ヶ月前に火事で損傷を受けました。すでに修復されて打ち上げ可能であると報告されています。

4. カールのメモでは触れられていませんが、先の情報はCNESによるものです。CNESはフランスのNASAの同類の機関です。CNESはESAからアリアン5ロケットの開発責任を持つ機関として任命されています。

近々、このPhase3Dの打ち上げについての不幸なニュースについての正式なAMSATニュースサービス(ANS)ブレテンが発行されます。

73,

ビル タイナン W3XO
AMSAT-NA 会長

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カール マインツァー博士 DJ4ZC の声明:

皆様、

はじめに、同情と激励のことばを送ってくださった皆さんに感謝いたします。

この情報が流されて以来、多くの人々とお話しし、これにより状況が少しはっきりとしてきました。

まず、事態を正しく理解するために、これまでの経過を短くまとめておきます。

1. ESAは、AR 502の打ち上げの前に、我々が「打ち上げに間に合わなかった」ことを理由にして我々との打ち上げ契約を解除しました。もちろんこれはAR 501の打ち上げ失敗の結果として502の打ち上げの直前に我々に課せら
れることとなった仕様の変更が原因で間に合わなかったです。我々は常に、この仕様の変更における、受け入れ不可能な急な通知を理由に契約を解除することは、法律上もやや疑わしいものであるという立場を取り続けま
した。一方ESAは、これは試験のための打ち上げであるからそのリスクは我々が受け入れなければならないものであるとの立場をとり続けました。

2. AR 501の打ち上げ失敗のため、3度目の試験打ち上げ(AR 503)が必要になりました。アリアン5の開発予算には、およそ$40,000,000の未回収の穴があいていたため、ESAはアリアンスペースに対し、この打ち上げに
商業客先を見つけるよう働きかけました。そのような客先が見つけられなかった場合には、アリアン5を開発している国々がこの穴を埋めなければなりません。

3. この1月に、ESAが下記の項目に同意した後は、更なるくだらない口論をすることなく、我々は契約の解除を財政的な条項とともに同意しました。

a. もし、AR 503に商業客先が見つからない時には、バックアップとして我々を搭載する。

b. もしも商業客先のために我々をAR 503に乗せられなかったときは、ESAは代わりの方法で我々の衛星を打ち上げるよう最善の努力をする。

4. 我々がアリアンスペースは商業客先を見つけることはなく(実際それが正しかったことが証明された)、それゆえ我々がAR 503に搭載されると考えていたのに対して、ESAは常に商業客先を見つけられると考え続けました。
これゆえ、残念ながらESAは上記 3.a の選択肢について積極的に準備を行いませんでした。特に、3.a の選択肢が遅い段階で実行に移された時に我々をAR 503に搭載するために必要になる調査をESAは怠りました。

5. 先週のESAの計画理事会において、アリアンスペース社は、自身、下部ペイロードの構成を自由に決める権利を得る見返りに$US 40,000,000を支払うとの声明を出して皆を驚かせました。すなわち、アリアンスペース自身が下部ペイロードベイの“商業客先”となり、我々は落とされたということになります。

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以前は、なぜアリアンスペースがこの措置を取ったのかわかりませんでした。しかし、多くの人々と話をするにつれ、しだいに次のことがらが明らかになりました:

まずはじめに、可能な限り早くAR 503を打ち上げたいとの明確な意向がありました。アリアンスペースはアリアン5を毎月打ち上げるという究極の目標を持っていると考えると、打ち上げが1ヶ月遅れる毎に$US 200,000,000の
収入を失うことになります。このことは、最近打ち上げ機の需要に関してアリアン5の能力について議論されていることからも明らかです。アリアンスペースは、アリアン5が更に遅れて、客先が他の打ち上げ業者に流れること
にいくらかの恐れをいだいていたのかもしれません。

しかしまた、アリアンスペースは、AR 503の経費対利益比を最良にしようと考えました。このことについて、アリアンスペースは保険会社と被害を受けたW1について交渉を続けていました。もしW1がAR 503の打ち上げまでに修復
されるのなら、それを打ち上げて、自ら通信サービス業を行うというものです。このことについて私は早くから気付いていましたが、それを真剣に受けとめてはいませんでした。アリアンスペースは、これが招くであろう彼らと彼らの客先との利害の衝突の観点からこの選択肢を避けるだろうと私は推測したためです。これは後に私の判断の誤りであったことがわかりました。ある意味で、我々がこの利害の衝突の最初の犠牲者になってしまったのです。
しかし今思うと、この“賭け”からして、たとえESAがその宿題を済ませていたとしても、アリアンスペースが我々をバックアップとして検討したかどうかは疑わしいものです。唯一はっきりしているのは、彼らは打ち上げぎりぎりまで、W1のダミーを修復の済んだW1に切り替える選択肢を残しておきたかったのだということです。

我々はこれに対して、$US 1,000,000を支払うことと、ただの重りを打ち上げるのではない、という幾分かの倫理的な正当化で対抗することはできなかったのです。

これゆえ我々が泣く事になりましたが、もう泣き止みました。 - もう前向きに考えましょう:

1. ESA にとっての打ち上げ機の開発は終わりました。そしてこの段階の終わりは、そのスタッフと責務の量にはね返ります。率直に言って、上述の3.bに関わらず、将来私は彼らに多くを期待しません。

2. 我々はアリアンスペースと打ち上げについて真剣な交渉を始めなければなりません。当初、彼らは$US 10,000,000で我々を打ち上げると言いました。これは我々にとってとても手の届くものではありません。しかし私はアリアンスペースが我々置かれた環境と束縛についてよく理解すれば、交渉の余地が生ずると期待しています。

3. 私は我々[ドイツ]の政府から大きな助けが得られると期待しています。彼らは膨大な出費をせずに済みました。それというのも、我々が犠牲になったからにほかなりません。

また、次の打ち上げの機会が訪れた時の準備として、試験を含む衛星に関する作業をできるだけ早く終えておかねばならないことは、すべての関係者の合意するところです。

打ち上げは今年はないことは確実です。しかし来年になれば、アリアン5に関して何かを見つけられるチャンスは悪くないと考えています。これはアリアン5の打ち上げ能力とペイロードの重量のミスマッチから考えても有り得
ることです。

しかしまた、これと並行して他の打ち上げの機会を捜し求めるべきですし私はそのようにするつもりです。我々は短期的には問題を抱えていますが、中期的に見れば私はそこそこ楽観的です。

ですから、幸運をお祈りください。打ち上げを確保するための我々の進捗については、またここで皆様にご報告します。

Dr. Karl Meinzer, DJ4ZC
AMSAT-DLe.V. 会長

dj4zc@amsat.org

原文はこちら

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