FO-29衛星を聞いてみよう
JAMSAT
日本アマチュア衛星通信協会
FO-29(JAS-2)衛星のデジトーカを聞いてみよう
衛星通信の入門はまず受信から
衛星からの電波を受信するのは意外に簡単、でもけっこう奥が深いのです。
JAMSAT


2000年10月 7日から11月5日まで、FO-29デジトーカが運用されます。
ふじ3号 FO-29の運用予定はここをクリック



“こちらはJAS-2、*****”

JARL(日本アマチュア無線連盟)のアマチュア無線衛星 FO-29 (Fuji OSCAR 29, JAS-2, ふじ3号)は、デジトーカと呼ばれる、デジタル録音された30秒ほどの短い音声を435MHz帯のFM変調の信号として繰り返し送信する機能を持っています。この信号は比較的強く、ハンディー無線機と付属のアンテナといった簡単な設備でもなんとか受信できますから、人工衛星から送られてくる電波の受信を初めて試みるのにはうってつけの素材です。FO-29 ふじ3号衛星についてはJARLのWebサイトに説明があります。また同サイトにはFO-29衛星のデジトーカの音声のサンプルWAVファイルも置かれています。RealAudioファイルはこちらのAMSATサイトにあります。

ではさっそく受信してみましょう。 最初はなるべくシンプルな方法で挑戦するのが成功の秘訣です。 用意する道具は435.91MHzを受信できる受信機と、簡単なホイップアンテナだけです。 ただし道具の他に、いくつか理解しておくべきことがありますので、それらを簡単に説明します。

    1.受信機と周波数は
    衛星は435.91MHzのFM変調で送信します。 この周波数を受信できれば、ハンディー無線機でも広帯域受信機でもかまいません。 一つ注意することは、弱い信号も聞き逃さないように必ずスケルチを開いておくことです。

    2. アンテナは
    1000Km以上も離れたところから1Wの出力で送信された電波は、受信機に届く時にはとても弱くなっています。その微弱な信号を受信するのですから大きなアンテナが必要になると考えがちですが、実は最良の条件であれば受信機に付属する短いホイップアンテナでもなんとか受信できる強さなのです。 まずは受信機付属のアンテナで挑戦してみましょう。

    3.デジトーカの運用予定を知ろう
    FO-29衛星はいくつかの運用モードを持っており、デジトーカはその運用方式の一つです。デジトーカが運用されていない時にいくら受信を試みても聞こえるはずがないのですから、まず コマンド局がいつ運用モードの切り換えを行うのかを知っておかねばなりません。運用モードの切り換え予定を知るには次の方法があります。


    4. いつ衛星が上空を通過するのか知ろう
    電波は光と同じように直進するものですから、あなたから見える範囲に衛星が入らなければ衛星からの電波を受信できません。地域にもよりますが、FO-29衛星は午前と午後に数回ずつ皆さんから見えるところを通過します。いつFO-29が通過するかは、JAMSATの通過予報のページを見ればわかります。通過予報のページを開き、一番近い町の名前をクリックし、FO-29をクリックすると、これから一週間の間に衛星が通過する時刻と方位などの情報が表示されます。特に Peak Elev(最大仰角)の欄に*印のある通過は、衛星が地平線から高く上ることを意味しており受信に適しています。仰角とは、あなたを頂点として地平線と衛星が作る角度です。仰角0度は地平線、90度は天頂を意味します。

    Azimuth とは方位角を意味します。あなたの北が0度、東は90度、南は180度、西は270度となります。360度で北に戻ります。


    たとえば通過予報に次のような行を見つけたとします(実際のデータではありません);
 Date (JST)          Time (JST) of       Duration  Azimuth at Peak  Vis Orbit 
                 AOS      MEL      LOS    of Pass AOS MEL LOS Elev
Sat  20Jul00  10:27:59 10:38:37 10:48:33 00:20:35 169 257 346 79.1* DDD 19131
    まず注目するのはPeak Elev(最大仰角)です。79度ですから、ほぼ頭上を通過することがわかります。この通過は受信しやすそうです。ではこの行を左から読んでいきます。

    Sat は土曜日、20Jul00は、逆に読んで2000年7月20日を意味します。
    Time (JST) of の時刻欄は
    AOS(見え始める時刻)は10:27分です。この時間までに受信準備を済ませておきます。
    MEL(最大仰角に達する時刻)は10時38分です。この時刻に衛星は最も近づきます。
    LOS(見えなくなる時刻)は10時48分です。衛星は地平線に沈んでいきます。
    Duration of Pass(見えている時間)は20分間です。簡単な道具でも5分間は受信できるでしょう。
    Azimuth at の方角欄は
    AOS(見え始める方角)は169度です。ほぼ南から昇り始めます
    MEL(最大仰角に達した時の方角))は257度です。ほぼ西にあたります。
    LOS(見えなくなる方角)は346度です。ほぼ北に沈みます。
    Orbitは衛星が打ち上げられてから何回地球を回ったかを示す軌道番号です。

    見え始める時刻と見えなくなる時刻は、地平線が見渡せるものとして計算していますから、周辺に建物や丘がある場合は、これよりも遅く見え始め、早く見えなくなります。


さあ、これであなたは受信準備完了です。 もう一度おさらいすると;
  1. コマンド局の発表する運用予定表でデジトーカの運用日を知り
  2. JAMSATの通過予報で衛星が通り過ぎていく日時や方位を知り
  3. 受信機の周波数を435.91MHzに合わせて
  4. 受信機のスケルチを開いて、ザーザーいわせながら
  5. なるべく空の広く見える場所に立って
FO-29衛星が飛来するのを待てばよいのです。

さあ聞こえましたか?それが宇宙から、たった1Wの電力で送られてきた信号なのです。ちょっと難しかったでしょうか?それとも簡単すぎましたか?デジトーカは、衛星通信を試みる際に必要になるいくつかの基礎技術を教えてくれます。 なんどか繰り返し試みてください。 この受信方法を会得したら、今度はもっと明瞭に、もっと長時間受信するためにいくつかの工夫をしてみましょう。一つ一つ効果を楽しみながら改善していけば、きっとよい成果がえられるはずです。人工衛星への理解も深まります。

    1. まずはアンテナに一工夫(大きすぎるアンテナは禁物)
    ホイップアンテナで挑戦するのなら、無線機に付属する短縮アンテナよりも、1/2波長のホイップのほうが良い成果が得られます。衛星からの信号を捕らえたら、アンテナと地面の距離を調節したり、向きを変えたりして、どうすれば強く安定して受信できるかを探ってみましょう。衛星の仰角が高い時は、アンテナを水平にして、地面に近づけたほうが受信しやすいこともあります。これは地面が反射板として働くからです。 という事は段ボール紙とアルミ箔で反射板を作って、その前にホイップを置いたらどうでしょうか。いろいろ試してみる事がありそうです。

    ホイップでの受信が上手く出来るようになったら、ほどほどの利得の期待できる 3 から 6 エレメント程度の八木アンテナを用意してみましょう。折畳み式や組み立て式のアンテナが市販されていますが、波長の短い430MHz帯ですから手持ちできる軽量な八木アンテナを自作するのも容易です。 あまりエレメント数の多い、利得の大きなアンテナは避けましょう。このようなアンテナは重かったり、指向性が強すぎたりして、動き続ける衛星に正しく向けるのが難しいからです。 身近な材料で簡単に製作できる6エレメント八木アンテナなどを作ってみましょう。ホームセンターで手に入る材料を使い1時間ほどで完成し、しかも高性能です。

    手持ち八木アンテナで衛星を追う

    八木アンテナで衛星を追うと、衛星が空を駆け抜けていく様子が手にとるようにわかります。 衛星を追えるようになったら、手持ちアンテナを利用して、もう一つ面白い実験をしてみましょう。それはアンテナを衛星に向けたまま、ブームを軸にして左右に45度ずつの範囲でゆっくりひねってみるというものです。ひねっても信号強度があまり変わらないこともあれば、大きく変化することもあるはずです。 これはFO-29衛星から円偏波で送信された信号も、受信者から見た衛星の姿勢によっては、円偏波、楕円偏波、直線偏波と変化するからです。 正しく円偏波になっている時は、受信アンテナをひねって偏波面を変えても受信強度は変わりませんが、多くの場合は楕円偏波や直線偏波になっているため、受信アンテナのひねり方で受信強度がかなり変化します。受信アンテナと衛星のアンテナの特性を理解すれば、受信アンテナのひねり具合から衛星の姿勢が刻々変化する様子を推察できるようになるでしょう。衛星からの信号の偏波には電離層と地磁気の組み合わせも影響を与えます。

    2.ドップラーシフトを追いかける
    衛星から送信する周波数はいつも 435.91MHz なのですが、受信機に届く信号の周波数は、衛星が近づいてくる時は435.91MHzより8kHz高く、離れていく時には逆に8kHz低くなります。 これをドップラーシフトと呼びます。 救急車のサイレンが、近づいてくる時には高く、遠ざかっていく時には低く聞こえるのと同じ仕組みです。 届いた信号の周波数が変化するのですから、正しく受信するためには受信機の周波数もこれに合わせて;

    • 衛星が地平線から上ってくる時には435.918MHzに、
    • 衛星がもっとも近くを通過する時には435.910MHzに、
    • そして地平線に沈んで行く時には435.902MHzに

    と徐々に変化させて追いかけたほうがきれいに受信できます。 このために、まず受信機の取扱説明書に従い、周波数のステップをもっとも小さい刻みにしましょう。 多くのハンディー無線機は20kHzステップにセットされていますから、これを最小ステップに切り替えておきます。 もし、5kHzが最小ステップでしたら、まず435.920MHzにセットして衛星を待ち、衛星がもっとも近くを通過する時に435.910MHzにして、衛星が遠ざかっていく時に435.900MHzにするといった具合です。

    3. 見える方向が西にずれる、朝と夜とでは衛星は逆向きに飛ぶ?
    FO-29は朝数回、夜数回上空を通過していきます。通過予報を注意深く読んだり、手持ち八木アンテナでFO-29衛星を追いかけてみると、面白い事に気付きます。例えば、朝その日最初のFO-29の通過を観測してから1時間35分ほどするとまたFO-29がやってきますが、前と同じところではなく西にずれたところを通過していくのです。これはなぜでしょうか。また午前と午後の飛んで行く向きを比べると、それらは逆になっていることに気づきます。午前は南から北へ上っていくのに午後は北から南に下っていくのです。さてこれはなぜでしょう。次のヒントを参考に地球儀を持ち出して考えてみてください。

    ヒント
    • FO-29は地球を一周1時間45分の速度で縦に(北極南極の近くを通るように)回っている
    • その間にも地球は東へ東へと1時間に15度ずつ自転する

    通り過ぎていったFO-29は今どこにいるのでしょうか? Heavens Above のホームページは現在のFO-29衛星の位置を地球儀と地図の上に示してくれます。 ここをクリックしてください。 一度ページが表示されたら、数分後にブラウザの再読み込み(更新)ボタンを押してみましょう。衛星が動いていく様子がわかります。

    衛星の軌道について興味のでてきた人は、NASDAのこのページに簡単な説明がありますから読んでみてください。 絵も多くやさしく書かれています。
    http://spaceboy.nasda.go.jp/Note/Eisei/J/eis04_j.html

    4. 衛星がどのように上空を通過していくのか知ろう
    JAMSATの通過予報のページを見れば衛星の通過時刻や、空のどの辺りを通過して行くのかその方位と最大仰角を知ることができます。Heavens Above のホームページでは現在の位置を知る事ができます。 しかし、コンピュータと軌道計算プログラムを使えば、いつでももっと具体的に、かつ視覚的に通過経路を知ることができるのです。AMSATのソフトウェアダウンロードのページには、いくつかの軌道計算プログラムが用意されていますから、適当なものをダウンロードして実行してみてください。軌道計算プログラムを使って衛星の位置を正しく計算するには、なるべく新しい軌道要素が必要になります。FO-29衛星の最新軌道要素はJARLのこのページから入手できます。

    これで衛星が空のどこを通過していくかがわかりましたから、それに合わせて指向性アンテナを衛星に向け続けることができるはずです。

    5.受信機の感度を改善しよう
    最近の無線機はFO-29衛星からの微弱な信号を受信するのに必要な受信感度を持っています。 しかし低雑音プリアンプを付加すれば、より微弱な信号も明瞭に受信できるようになります。 高性能素子のおかげもあって、高性能な低雑音プリアンプを自作することもさほど難しくなくなりました。完成品もキット売られています。ひとつ注意する事は、プリアンプを接続したまま送信してしまわないことです。広帯域受信機ならこの心配はありません。

少しずつ改善を繰り返しながら FO-29衛星のデジトーカの受信に挑戦してみるうちに、衛星が地平線に現われてから、地平線に沈んで行く時まで安定した受信状態を保てるようになるでしょう。 手持ち八木アンテナで衛星を追跡することにより、高度1000Km程度の低高度円軌道を飛ぶ衛星の動きを体で感じる事ができたはずです。 受信アンテナの偏波面を衛星からの信号に合わせることで、衛星の姿勢の変化も感じられたでしょう。 地球を縦に周回する衛星を地上から観測するとどう見えるのか理解できたはずです。 軌道計算ソフトも使いなれましたね。 ここで習得した技術は、やがて衛星を経由した通信に挑戦するときに必ず役に立つものです。 楽しみながらチャレンジしていただきたいと思います。

JAMSAT

追記:この記事に書かれていることを習得できたなら、FMリピータ衛星を使って実際に行われている交信の様子を聞く事が出来ます。UO-14衛星などは、よい対象となるでしょう。 Heavens Above のサイトにはその日に聞こえそうなアマチュア衛星を時刻順に並べた表もあります。 Heavens Above へは JAMSAT の通過予報のページからリンクもあります。



JAS-2 (FO-29)衛星(無線局8J1JCS)の受信証 /JARL
JARLではFO-29衛星の受信報告に対して受信証を発行しています。ぜひ受信報告を送りましょう。受信報告の送り方は、JARLの “ハンディー機で手軽に挑戦! 「ふじ3号」 デジトーカ受信にチャレンジ!”のページにも解説されています。

文責 岡本健男 (質問はこちらまで)
イラスト Ellie Okamoto

Original edition 07/01/2000
Last update 9/1/2000
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