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[jamsat-news:1534] AO-40: アークジェット・モータの状況について


皆様、

AO-40コマンドチームの Stacey E. Mills, W4SM から
アークジェット・モータについてコメントがありました。

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アークジェットの噴射についてAmsat-BB上に投稿された幾つかの
質問に答えたいと思います。また、投稿されたコメントにある誤解を
解きたいと思います。

1. 軌道変更前は安定であったか?
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はい、安定な軌道でした。軌道解析を行ない、その結果は安定なもの
でした。少なくとも、大気圏へ再突入して燃え尽きるような懸念はありま
せんでした。しかしながら、皆さんご存知のように、近地点高度は非常に
低いものでした。事実、シミュレーション結果では、160kmまで低下して
いました。近地点では大気との摩擦がかなりあり、平均運動(ミーン・
モーション)に継続的に影響を与えていました。また、衛星姿勢(ALON)
の変化(いわゆる謎の力)に恐らく影響していたかもしれません。衛星の
軌道要素を頻繁に更新する必要がありました。近地点高度が低いことから
近地点通過が速く、そのためにマグネトルキングが手際を要する難しい
ものとなり、姿勢決定に時間を要していました。これらの事項を改善する
ために、近地点高度を上げたかったのです。以上のことは、アークジェット
噴射前の軌道が不安定であったことを意味する訳ではなく、単に最適で
なかっただけです。6月中の近地点高度は、正直言って、心配するほど
低いものでした。

2.  アークジェットの制御ソフトウエアが正しく動作しなかったのか?
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いいえ、明らかにそれは違います。私がソフトウエアを書いて、コマンドチーム
の他の者たちがそれをチェックしました。ソフトウエアは、いかなるシミュレーショ
ン
でも完璧に正しく動作しました。ソフトウエアの誤りを示唆するようなテレメトリ
データは、一片もありません。

3. 我々はアンモニアを使い切ったのか?
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現在言える範囲では、そうです。

4.  アンモニアはどうなったのか?
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我々は全ての答えを持ち合わせていませんので、完全なリポートはまだ
広報していません。TMFC(thermal mass flow controller : 加熱流量調整器)
に動作不良が生じて、規定よりも多いガスを流したことは明らかです。しかし、
テレメトリではこれを示すデータはありません。スピンレートの変化やテレメトリ
で取得した流量など、全ては安全圏内にありました。制御ソフトウエアは、
TMFCを50%の流量に正しく設定しました。この結果、毎秒25から30ミリグラム
の流量であったはずです。たとえ流量が全開であったとしても、TMFCは
毎秒100ミリグラムを越えてアンモニアを消費することはなく、したがって、
たとえ58時間の運転後でも、約60%のアンモニアが残っていなくてはなりません。
テレメトリによると、約1575分間(26.25時間)でガスが無くなったことを
示唆しています。タンクが満杯だったすると流量は毎分560ミリグラムで
あったことになり、TMFCの許容範囲を超えています。再度言いますが、
我々は説明のつく答えをまだ探しているところです。説明しましたように、
現在の軌道に達するのに必要なアンモニアは、およそ半分の量しか
消費しないのです。したがって、アンモニアのタンクにゆっくりとした漏れ
(スローリーク)があり、半分に減ったタンクで噴射を開始した可能性は
十分にあります。もしそうであれば、アンモニアの流量は毎秒約280ミリ
グラムであり、それでもまだ公称値流量の3倍となります。視点を変えて
みると、新旧の軌道での遠地点速度の変化は、秒速40メートルです。
500kgの質量を1575分間で加速するには、0.213ニュートンの力(推力)
となります。しかし、この推力は、アークジェット・モーターを正規にアーク
放電させて使用した時に達成できる値よりも2倍以上も高い値です。
ヘリウムのタンクと異なり、アンモニアのタンクは液体と気体が均等に
交じり合った状態にあるため、タンクの圧力は、タンク中の液体の量に
比例しません。液状のアンモニアがタンクにある限り、タンクの圧力は
温度のみに依存します。したがって、圧力計では判断できないので、
アンモニアの残量を知る方法はなかったのです。もしスローリークが
あったとすれば、残ったアンモニアを現時点で使ったことは、ひじょうに
幸運なことです。

5. 最初の噴射試験で、なぜ軌道をチェックしなかったのか?
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ソーラーアングルの変化、謎の力、そしてALONの摂動、さらには太陽と月の
影響(衛星姿勢の維持を難しくするかもしれない)で六月後半の近地点高度が
急速に低下したこと等の理由から、姿勢変更に条件が揃っている間に
できるだけ早く姿勢変更を開始してALON/ALAT=0/0に戻すことが重要でした。
たった一回の試験噴射では、近地点高度のわずかな変化を、外乱に対して
精度良く測定することは困難です。加えて、試験噴射に続いて精度良い軌道
要素を得るには、一週間以上を要したはずです。(まさに現在の状態が
該当します) 何か問題を示すような事項は、テレメトリにはありませんでした。
それで、我々は本格的な軌道変更へと進んだのです。現実的な観点からすると、
何かとんでもない異変が生じていたとすれば、アーク放電を用いた噴射に
必要とする安定な低い流量を維持することは困難であり、したがって、
アンモニアの予想以上の消失は、電力を加えてのアークジェットの運用に
何ら影響を与えなかったであろう、ということは常に明白でした。

6.  コマンド局は自分達がやっていることを理解しているのか?
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そう思いたいです。アンモニア噴射に関する問題がコマンドのエラーであると
いう確証はまったくありません。現時点では、これ以上詳しい説明
材料はありません。我々コマンド局はこの任務に真剣に取り組んでおり、
とてつもなく多くの時間をそこに割いていることを皆さんの心に留めておいて
ください。アークジェット噴射のために、AO-40を270/0の姿勢へ持っていくだけ
でも、数週間の努力と計算を要しているのです。問題を生じた場合には、
労力は指数関数的に増大するでしょう。我々に求められることの第一は、
衛星を完全に保つことです。第二に、できうる限りにおいて、重要な情報を
衛星から収集することです。第三には、その情報を分析すること。そして、
判明したことを広報することです。率直に言って、何か問題があったときに、
AMSAT-BBへ何かメッセージを書き込むことが一番最初にやるべきことだとは、
私は思いません。何かを「隠蔽」したい訳ではありません。耐え難く厭な時期に、
個人的には少なくとも一度はそう感じたことを告白しますが、、、 本当の
ところは、衛星が健全に機能しているかを調べること、そして次に何を行う
べきかを決定することなど、これらに努めることで忙しいのです。信頼の
おける情報が得られたと確信する場合には、事実を皆様にすべて広報
します。

7. 次に壊れるのは何か?
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端的に言って、我々には判りません。この先ずっと、何も壊れないことを
私は心から願っています。しかし、これは結局のところ、「ロケット・サイエンス」
なのです。何も保証されている訳ではありません。しかしながら、故障
あるいは失敗のシナリオを考えずにコマンド局は試験を性急に行なって
いる、という批判が続いています。その批判は事実が証明してくれます。
何週間にもわたる議論がアークジェットの噴射と発生しそうな故障モード
について行なわれました。これらの議論は、アークジェットの設計者と製作者、
そして運営チーム等を含んで行なわれたものです。議論の結果として、
アーク放電での噴射を試す前に、アンモニアだけを噴射すること、そして、
近地点高度を上げることが決定されたのです。その理由は、この方針
である限り、バルブの故障/貼りつきが軌道を台無しにすることがない
からです。もし、計画の方針を違うものにしていたら、近地点高度は+850km
ではなく-350km(訳注:すなわち再突入)だったかもしれないことを
考えてみてください。

モーメンタム・ホイールは未だ試験されていません。故障の可能性や、
障害時の復旧手順などについて十分な議論がなされた後、安心して
試験されるでしょう。モーメンタム・ホイールの試験は、アークジェットと
ちがって、特に危険な試験だとは、私は考えていません。しかし、この
試験も最大限の注意を払って計画が進められています。最終的に、
太陽電池パネルを展開する決定は、もっと更に複雑です。太陽電池
パネル展開は引返すことのできない片道切符であり、モーメンタム・
ホイールが完全に動作して、3軸姿勢制御のソフトウエアがうまく動作
することが長期にわたって実証された後、すなわち、かなり後になって
実行されるでしょう。これらに何か問題がある場合には、衛星をスピン
モードにしたままにします!!! 現状での第一の目標点は、トランスポンダ
運用が可能で、RUDAKの試験を完了できる姿勢へAO-40を戻すことです。
(訳者希望:SCOPEの試験も!!!)

8. そして最後に
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この報告が幾つかの疑問点を明らかにすることを期待します。一方では、
AO-40のユーザーやサポーターにとってはこの報告が不満足なもので
あることも理解しています。しかし信じてください、現状はコマンド局に
とっても、非常に不満な状態なのです。アーク放電での噴射のために
数多くのソフトウエアが書かれ、試験されましたが、もはやそれらが
使われることはないでしょう。アークジェットの製作に永年の努力を費やして
きて、いまやその晴れ舞台を見ることのない関係者の憂鬱に比べたら、
私の憂鬱など取るに足らないものです。コマンド局の能力や動機を
疑問視したAMSAT-BBの投稿で、私の失望感が出てきたことは認め
ざるをえません。個人的にはそのような誹謗を気にしないように努めて
いますし、皆さんがこの報告に納得してくれると考えています。我々
コマンド局も同様です。いまや衛星は非常に安定した軌道にありますし、
皆さんが衛星を利用できるように0/0の姿勢へ戻っている途中です。
AMSAT-BBで支援のコメントを送って下さった皆さんに感謝します。
また、我々の能力に疑問を呈した方にも感謝したいと思います。
それらは少なくとも、皆さんが衛星に興味を持ってくれていることの
証です。我々コマンド局は、皆さんの厳しい詮索に耐えることができ
ます。もしできないようなら、別の新しい趣味が必要でしょう。

Stacey E. Mills, W4SM
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JAMSAT SCOPE プロジェクトチーム
武安
ja6xkq@jamsat.or.jp