SCOPE アップデート
JAMSAT

JAMSAT 日本アマチュア衛星通信協会


Phase 3D衛星の熱真空試験 成功裏に終わる

1998年11月 International Phase 3D Satellite Project
Peter GuelzowおよびWerner Haasの報告



AMSAT P3d 熱真空試験成功

1998年10月13日より30日まで、AMSATのP3d衛星はジャーマンタウンにあるOrbital Science社で試験を受けました。同地はアメリカ合衆国の首都ワシントンDCから約50kmはなれたメリーランド州に位置しています。同衛星を運んでフロリダ州オーランドから往復するのに、レンタルのトラックで片道2日弱でした。ドライバーは、Bob Davis (KF4KSS)およびRick Leon (KA1RHL)で、ふたりともオーランドでの組立チームのメンバーです。Orbital社に到着後、衛星はクリーンルームに入れられ、熱真空試験の準備に入りました。温度センサーが機器のあちこちに取り付けられました。クリーンルーム内の空気は1時間に65回の割合いで交換されています。空気の汚染を防ぐため、換気システムは常時動作しています。クリーンルームに入室する人は防塵服を着なければなりません。

組立チームのリーダーであるLou McFadin (W5DID)とチームのメンバー以外に、フィンランドからMichael Fletcher (OH2AUE)、そしてAMSAT-DLからWerner Haas (DK5KQ)およびPeter Guelzowが参加していました。このプロジェクトのリーダーであるKarl Meinzer博士 (DJ4ZC)は、アリアン503号の打ち上げ成功の後に開かれた重要なミーティングに出席しなければならなかったため、数日遅れて参加しました。

衛星が試験チェンバーに入れられる前に、全システムが最終的なチェックを受けました。特殊なクレーンと取り付け金具を使い、P3dは11フィート×16フィート(約3.3m×4.8m)の真空チェンバーに入れられました。受信機、送信機、電源装置、アンビリカル接続プラグ(テレメトリーおよびコマンド用の配線)、そして温度センサーなどにケーブルが取り付けられました。さらに、30個のクォーツ・ハロゲン灯を使った加熱器にも配線がなされましたが、これはこの試験の“加熱段階“で使われました。 (写真は http://www.magicnet.net/~phase3d/dailyphotos/dp981022.html)

Rick (KA1RHL)の衛星にマイクを取り付けようという提案にしたがい、RadioShackなどによくある圧電ブザーを数ドルで買ってきて取り付けました。これはもちろん、真空中でのみ発生する機械的な発振や振動を検知するためのものです。最初はオシロスコープだけが繋がれていましたが、これまたRadioShackから買ってきた簡単なパソコン用アンプ付きスピーカーも繋がれました。 その成果は驚くべきもので、また感動ものでした。私達は、打ち上げ本番にもこのような機械式マイクを取り付けようかと今検討しています。...詳細は後程...。

送信機にはチェンバー外にダミーロードが取り付けられ、受信機には保護の為アッテネーターが取り付けられました。2m、70cm、そして23cm用のアンテナが、Orbital Science社の屋上に設置されました。

数キロ離れたホテルの一室にはP3dコマンド局が設けられました。なんと“室内”アンテナだけで、P3dのモニタとコマンドが常時可能でした。RUDAKグループ(Chuck Green (N0ADI)、Harold Price (NK6K)、Jim White (WD0E)、そしてBdale Garbee (N3EUA))はホテルで複数の地上局を運用しました。これによって、プログラマ達がRUDAK-AおよびRUDAK-Bの各プロセッサを同時並行的にテストすることが可能になりました。

簡単な機能検査ののちチェンバーの重いドアが閉められ、真空ポンプが動作を開始しました。ほぼ8時間後、チェンバー内の気圧は2x10E-7ト−ルまで下がりました。P3dはこのとき初めて空気のない宇宙を経験したのです。まず最初に70cm TXに電源が入り、P3dが“オン・エアー”したのです。周辺のハム達はP3dのテレメトリ・ビーコンをまず最初に聞くことができたはずです。すぐさまMichael Fletcher (OH2AUE)とWerner Haas (DK5KQ)が送信機と受信機の測定を始め、Peter Guelzow (DB2OS)がこの宇宙船にコマンドを送って搭載プロセッサとその他のデジタルシステムの動作を確認しました。この段階を経た後、最初の温度サイクルにゴーサインが出されました。P3dの温度は-20C以下に下げられましたが、衛星の表面温度はそれよりはまだはるかに低いのです。

真空チェンバーの内壁は液体窒素によって冷却され、約100K (-173C)にも達します。チェンバー内にまだ残っていた空気の分子やその他のものはこの内壁に析出されます。これは、宇宙の暗くて冷たい条件のシミュレーションです。対流の発生はなく、ただ放射による熱の移動があるだけです。このため、-20Cに達するにもおおよそ8時間を要しました。衛星内においても同様で、熱の移動は放射もしくは機械的な接触を通じた伝導によってのみ発生します。

衛星の開発において考えておかねばならないのは、高出力の送信機のようなモジュールが多くの熱を発生する一方でコンピュータのように少しの熱しか発生しないモジュールもある、という事実です。従って、各モジュールは、それがとても熱くなるか、それとも冷たいままであるか、といった条件に基づいて、どのように組み込むかが決められます。高出力の送信機にはそのモジュールから熱を速やかに他へ運ぶために“ヒートパイプ”を取り付けられます。衛星は、チェンバーに入れられるときはもちろんまだ地上における重力の影響を受けているため、ヒートパイプが適切に機能するように、1度以内の誤差で据え付けられなければなりません。設定温度に達して恒常状態になってはじめて、衛星内の全てのコンポーネントがふたたびテストを受けました。

“冷却”状態での測定試験に結論がでると、衛星は今度はクォーツランプを使って+45Cまで加熱されました。これにはだいたい6ないし8時間かかります。何台かの高出力送信機が動作状態にされたので、このプロセスは短縮されました。高温状態に達すると、全モジュールが再度機能チェックを受けました。その後、また8ないし10時間かけて衛星の温度は今度は-20Cまで下げられました。この温度に達したら、送受信機がまた測定されました。最後に、-20から+45 Cまでの温度サイクル試験を5回繰り返しました。

送受信機以外の機器は全て順調に動作しました。磁気式モーメント・ホイールがまず3000rpmでテストされました。これは全くうまくいきました。以前に述べたマイクのおかげで、参加者全員がすばらしい経験を音で味わいました。マグネットのスイッチを入れたり切ったりするたびに、ホイールの加速や減速の音がクリアーに聞こえました。Orbital Sciences社から参加したチームのメンバーにとって、こんなクレイジーな発想のテストを見たことはこれまでなかったそうです。実際、ホイールが正常に動作しているかどうかを確認できたという実益も、マイクはもたらしてくれたのです。マイクの出力をラップトップのサウンドカード入力につなぎ、フリーウェアのFFTプログラムで見ることによって、ホイールの正確な回転数rpmがわかったのですから。アンテナリレーの動作やその他の現象も同じように検出されました。衛星が+45Cから温度を下げていったときのメカニカルなテンションが弛んでいく様子もわかりました。同様なマイクをIHU-2 (YAHU)に直接取り付けることも計画されています。そうすれば、モーメント・ホイールの観察ができるだけでなく、ソーラーパネルや二つのモーターのバルブのリリースや加熱の状態も観察できます。

AMSAT P3dプロジェクトをサポートするために、設備などを自由に使わせてくれるなど最大限の支援をしてくれたOrbital Science社に大して特別の感謝を捧げたい。真空チェンバーの維持管理の為に、2人の技術者が三交代で詰めてくれました。

モーテルにいたP3dチームに一旦事あらば警報を伝えるべく“徹夜”でサポートしてくれたワシントン地域のハムに対しても感謝します。幸いそのような事態は起りませんでしたが。

P3dは10月29日に5回の温度サイクル試験を無事終えました。チェンバーは元の常温に戻され、さらに8時間かけて常圧に戻されました。

プロジェクトのリーダーであるKarl Meinzer博士 (DJ4ZC)は、試験の成功を宣言しました。ただし、いくつかの問題が特定され、解決を求められてはいます。これらは当然予想の範囲内であった、なぜならこの厳しい試験は衛星が実際に宇宙空間へ送りだされる前にその弱点を洗い出すためのものだったから、と博士は述べています。大きな問題や取り返しのつかない失敗は起りませんでした。P3dはこれで、自らの人格といろいろな癖を持った本当の衛星になったのです。いままでは、各構成要素とモジュールの寄せ集めでしかありませんでした。

熱真空試験は短時間の内にかなり多くの労力を集中して投入しなければならない厳しい仕事です。この試験の期間に搭載コンピュータから30メガバイトのテレメトリ・データが記録されました。このデータは後でAMSATの技術者により解析され、衛星の能力が検証されることになるでしょう。こうした試験と検証のおかげで、P3dの打ち上げの成功とその後の長い寿命が成し遂げられるのです。

RUDAKチームも良い結果を報告してきました。すべての目標が達成され試験は完全に成功しました。RUDAKはCANバスを通してSCOPEカメラとコミュニケーションをとることができました。試験中に一連の写真撮影が行われました。このため、チェンバー内には宇宙規格のミラーが設置されていました。もちろん、撮影のためには加熱用ランプが点灯されねばなりませんでした、それなしにはチェンバー内は全くの暗黒ですから。同様に、スマートノード・コントローラやRFモニターの試験、さらにCEDEX放射の試験も成功裏に終わりデータが収集されています。

予定表の次項目は、1999年初めの振動試験です。これは打ち上げ時に起こりうる振動のシミュレーションです。すべてのモジュールがこの試験の前にもう一度チェックを受け、必要に応じて修正され、フォームを充填されます。これが終わるといよいよP3dは打ち上げ準備完了となります。どうして熱真空試験だけが今行われ、振動試験が後回しになっているのか、と疑問に思う方がいらっしゃるかも知れません。P3dはもっと前に準備完了になっていたはずではないか、と。その説明は簡単です。打ち上げ用ロケットが決定され、その要求がどの程度になるかが判明してからでないと、振動試験は行なえないのです。昨年、そして今年の初めの二度にわたり私達は打ち上げの延期に直面し、また打ち上げキャンセルの恐れさえある状況でしたから、そんなに急ぐ必要はなかったのです。時間に余裕がうまれたことにより、修正や改良をほどこすことができました。この時間的な余裕は新たな実験も可能にしました。たとえば、記録的な早さで新しいIHU-2(YAHU)コンピュータが開発され組み立てられ、そして成功裏に熱真空試験をパスしたのです。

ESAの打ち上げ順位決定責任者であるBernard Lacosteが、ジャーマンタウンでの熱真空試験中に訪問してくれたのも、私達に楽観的な見通しを与えてくれています。その直前、クールーの打ち上げ基地からは、P3dを載せずにアリアン503号が飛び立ち、打ち上げは成功しました。 ESAからの来訪者は、私達の衛星に関する仕事ぶりに感銘を受けたようで、新たな打ち上げ機会を探す上での最善の支援と将来の交渉を約束してくれたのです。

ところで、P3dはすでにオーランドに戻って、次の振動試験の準備がはじまりました。全部のモジュールのフォーム充填が終わり次第、回転平衡試験が行われる予定です。オーランドの組立センターでこのテストを実施する目的で、AMSATにより特別の試験機器が開発されています。1999年1月にはドイツチームがオーランドを再訪し、P3dの最終試験を行う予定です。

P3dの打ち上げが成功すれば、アマチュア無線家の使える、そして幅広い運用可能性をもった唯一のハイテク衛星となり、衛星通信の新たな領域を切り開くことになるでしょう。

JAMSATのSCOPEプロジェクト: http://www.jamsat.or.jp/scope/index.html
オーランドのP3Dラボのホームページ: http://www.magicnet.net/~phase3d/
熱真空試験中のRUDAK:http://users.sgi.net/~hprice/rudaktv.htm 日本語版

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