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[jamsat-news:1516] AO-40: アークジェット試験噴射による近地点高度の上昇


皆様、

AO-40コマンド・チームのDB2OS Peter Guelzow
から、アークジェットの試験噴射について広報が
ありました。

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AO-40の姿勢はALON/ALAT=270/0に近づきつつあり、
間もなくアークジェットの試験が計画されています。

システム全体を確認するためと近地点高度をいくらか
(数値は後述)上昇させるために、最初の試験はアーク
放電無しでアンモニアガスだけを噴射させて行われます。

アークジェットの性能に関しては、不確定要素が多々あり
ます。一番重要な要素は、AO-40の実際の質量です。ガス
だけを噴射した場合、ガスの噴出速度(約注:原文では
比推力Isp[Specific Impulse、単位は秒]であるが、用いて
いる単位と意味からガス噴出速度と判断)は、1000m/sの
オーダーが期待できます。アーク放電でガスを加熱した場合、
ガス噴出速度は4000m/s、あるいは4500m/s位に達するものと
考えられます。衛星質量を500kgとした場合、アークジェットの
噴射で500m/sのデルタv(速度変化)が得られるでしょう。
一方、アーク放電を行わない場合は、100m/s程度の速度
変化しか得られません。

近地点高度を上昇させるには、上昇分100kmにつき約7.25m/s
のデルタvが必要です。

衛星の質量を約500kgと仮定すると、近地点高度を100km
上昇させるには、アーク放電無しでは3.6kgのガス消費
(全量50kg+)が必要となります。一方、アーク放電有りでは、
約0.8kgのガス消費と、1000Wの消費電力で10時間のアークジェット
モータの運転が必要となります。アーク放電無しで、ガスの
流量調整器(マス・フロー・レギュレータ:MFC)が毎秒20から
30mgの流量に調整していると仮定すると、トータルでの噴射
時間は30時間から40時間ということになります。

500kgと仮定している衛星質量からして、軌道傾斜角を大きく
変えることはできませんが、16時間周期の軌道を得ることは
まだ可能です。16時間周期が得られると、現状の可視条件が
かなり改善されることでしょう。

軌道傾斜角が変化しないものとして、近地点高度をパラメータ
とした16時間周期を得るのに必要なデルタvは次のとおりです。

 500 km  77 m/s
1000 km 120 m/s
2000 km 200 m/s
4000 km 350 m/s

アーク放電を行わずに16時間周期を得ようとすると、近地点高度が
750kmを超えて上昇することは有り得ません。

まとめ:
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1) 初回試験として、アークジェットの高電圧/電力回路を
気にする必要はない。

2) 遠地点付近で長時間のガス噴射が可能である。この為に
アーク放電や太陽電池パネルの展開は不要である。

3) 得られる推力は、アーク放電を行った場合よりもかなり小さな
ものであるが、バッテリ状態を気にすることなく、各周回でより
長時間にわたってガス噴射が可能である。また、ガス噴射だけで
近地点高度をより短時間で上昇させることが可能である。

4) ガス噴射だけで近地点を100km上昇させるためには、
毎時0.1kgの消費で40時間、すなわち総合で4kgのアンモニア
消費となる。

5) この推力は、TMFC(流量調整器)の60%のレベルであり、
毎秒27mgの流量である。

6) 近地点高度を200km上昇させようとすると、20周回にわたって
遠地点付近で4時間のガス噴射を行えばよい。

7) その場合、アンモニアの消費量は全量53kgのうち8kgとなる。

8) 流量調整器を95%に設定して、遠地点付近の8時間でガス噴射を
行えば、10周回で約200kmの近地点高度の上昇が理論的には
可能である。

9) 16時間周期の軌道は、今なお実現可能である。(ただし、
軌道傾斜角の変更は無い)

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JAMSAT SCOPE プロジェクトチーム
武安
ja6xkq@jamsat.or.jp