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[jamsat-news:1448] AO-40の事故調査報告


皆様、

AO-40の事故調査報告が、AMSAT-NA会長よりANSを
通じて公式発表されましたので、全文を翻訳してここに
お届けします。

内容は推進系に関する技術的なものであり、理解を助
けるために、JAMSAT Newsletter 201号の32ページ
のブロック図をご覧になりながら、報告をお読みください。

JAMSAT 副会長
武安義幸
ja6xkq@jamsat.or.jp

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AMSAT-NAの会員の皆様へ、

以下に述べる声明は、2000年12月に発生したP3D衛星の
事故に対して説明を求めた会員諸氏へ応えるものです。
この声明文はAMSAT-NA会長であるロビン・ヘイトン
(VE3FRH)が、AMSAT-NA関係者からの情報と査読を得て
準備したものです。

御存知のように、Phase 3D衛星は、2000年11月16日に、
フランス領ギアナのクールーからアリアンスペースのロケット
(AR-507号機)で打上げられ、ほぼ完璧な静止トランスファ
軌道(GTO)へ投入されました。打ち上げ後の数時間のうち
には、2mバンドのビーコンから素晴らしいテレメトリ信号が
受信され、世界中のアマチュア無線局が、強力な信号強度
のお陰で、テレメトリのデータを高精度にダウンロードしはじめ
ました。当初の計画では70cmバンドのビーコンを使用する
はずでしたが、詳細不明の原因で、70cmバンドのビーコンは
受信できませんでした。

衛星が一般のアマチュア無線通信に使用されるようになる
までには、軌道変更、衛星の姿勢制御、そして太陽電池パネル
の展開など、種々の事柄を行う必要があります。衛星の姿勢
変更の第一回目は、搭載されているマグネトルキング・システム
を用いて行われました。この姿勢変更は上手くいき、数周の
周回の後、AO-40衛星の姿勢はALON/ALT=270度/0度になり、
400ニュートン・モータの点火の準備が整いました。この推進系
を構成する各種部品には、推進剤と推進剤加圧用ヘリウムを
制御する幾つかの弁(バルブ)があります。衛星を製作する
過程で、ヘリウム用バルブの一つに、作動させた時に引っ掛
かる傾向があることが判明しました。同じバルブが二個使用
されており、両方のバルブが検査と修理のために製造元へ返却
されました。二個のバルブは検査され、そのうち一個は修理され
ました。これらの処置を以ってバルブは衛星に戻され、推進系
へ再度実装された訳です。

400ニュートン・モータを点火する一回目の試みは失敗しました。
これは、恐らく、ヘリウム用バルブの動作が引っ掛かったため
と思われます。通常の約1/10のヘリウム流量ではあるが、5分
間以上の加圧時間で推進剤に正常な加圧が得られるであろう
こと、また、予定の3分間のモータ燃焼には、この加圧で十分で
あることの決定を、二回目の点火を試みる前に下しました。

モータ点火の二回目の試みでは、当初は全てが正常に動作しま
した。3分経過時点で、内部タイマーが主電磁弁に閉塞の信号を
送出しました。この動作は、モータへの推進剤を遮断しなくては
いけないものです。遮断信号が正しく送出され、電磁弁制御回路
で正しく受信されていることをテレメトリは示していました。しかし
ながら、モータは更に2〜3分間にわたって燃焼が遮断せず、その
結果、AO-40衛星を、その軌道変更で計画していたものよりも
高い遠地点軌道へ投入してしまったのです。

この異常がなぜ発生したかを理解するには、400ニュートン・モータ
の推進剤がモノ・メチル・ヒドラジン(MMH)と四酸化二窒素(N2O4)
で構成されており、これら二液が別々のタンクに貯蔵されて、
ヘリウムで二液が加圧されることなどを知る必要があります。
ヘリウムは更に電磁弁も経由します。電磁弁を経由したヘリウムは、
推進剤の流れを制御する二つのバルブに作用します。これら二つ
のバルブはモータの一部分であり、実際、モータの内部に実装され
ています。

電磁弁には排出ポートがあり(訳注:電磁弁は4ポートで、一つが
入力、二つが出力、4つ目が排出ポート)、バルブを閉じた時に
出力ポートに生じる余剰なヘリウムをこの排出ポートから逃がします。
この排出ポートが塞がれて、燃焼時間の3分を越えた時点でも
出力ポートが加圧状態に留まり、その結果、余分に燃焼が継続
したものと考えられています。

推進剤タンクと400ニュートン・モータの配管途中には、ヘリウムの
加圧で動作する遮断弁があります。ヘリウムの分岐管内圧力が
約6バール(100PSI)まで減圧した時点で推進剤遮断弁が閉じ、
モータへの推進剤の流入を阻止して燃焼を止めました。この
時点では、主バルブは開いたままであった可能性があります。
主バルブが開いたままであったのは、電磁弁から排出されずに
残っていた余剰圧力が原因です。

モータの燃焼終了から約12分後、二回目の障害が発生しました。
この障害は、電磁弁が閉じた状態から開いた時に発覚しました。
おそらく、遮断弁とモータの間の配管に推進剤が移動したために
生じたのでしょう。そして、推進剤が混合して発火し、モータが"ポン"と
あたかも"げっぷ"したような状態になったのでしょう。

高圧(180バール)のヘリウムは、高圧開閉バルブと減圧バルブ
(圧力を通常値の15バールにする)を経由して推進系へ供給され
ます。減圧されたヘリウムは、低圧系の分岐管へ供給されます。
上述の予定よりも長い燃焼が生じたため、高圧ヘリウム・バルブ
を繰り返し開閉(正常動作を得るために)するプログラムが作成
されて、バルブ試験のためにAO-40へアップロードされました。

2000年12月11日、件のヘリウム・バルブの開閉試験を行っている
最中に、AO-40からの信号が突然途絶えてしまいました。この
開閉試験中に、推進系が加圧状態になり、その結果、推進剤の
漏洩を引き起こしたものと考えられます。事故直後の当初の考えは、
たぶん衛星は分解して完全に亡くなってしまい、復旧の見込みは
ほとんど無い、というものでした。しかし、NORADの協力を得て、
衛星は一体の形状を保持しており、復旧の可能性を残して、既知の
軌道にあることが確認されました。少なくとも2回の自動復帰が、
衛星からの信号が聞こえぬままに終わりました。そこで、Sバンド
(2.4GHz帯)でのジェネラル・ビーコンを試してみることが決定された
のです。2000年のクリスマスの日、Sバンドの送信機を起動させる
2回目の試みが成功し、それ以降は、ダウンリンクのテレメトリが
通常状態に復旧されました。

次に述べる機器が動作していることが判りました; 2mバンド、
70cmバンド、そして1.2GHzバンドの各受信機、S-2送信機、マグネ
トルキング、YACEカメラ、IHU-2、そして高利得アンテナ。次に
述べる機器は動作していないものと考えられます; 2mバンドと
70cmバンドの送信機、そして無指向性アンテナ。

この広報を行っている時点(2001年3月16日)では、衛星の今後
の利用を左右する重要な機器であるアーク・ジェット・モータの状態は、
未だ判明していません。衛星が質量を失ったことは判っています。
これは、二液推進剤が400ニュートン・モータから漏れたことに原因が
あると考えています。衛星の回転数が質量減少によって増加してしまい
ましたが、マグネトルキングによって、現在では、回転数が毎分5回転
という望ましい状態まで減速しています。加えて、高速回転のために
機能していなかったヒートパイプも、現在では機能が復帰しています。

間もなく、AO-40は姿勢を変更することが可能となり、その結果、
高利得アンテナが地球を向き、アーク・ジェット・モータがテストされる
でしょう。姿勢の変更に引き続き、残りの搭載機器のテストが可能と
なり、どの機器と周波数帯が、どのような条件で今後とも運用可能か
を決定することができます。

衛星の状態について更に何か判明した場合には、追加の広報が
AMSAT-BBに投稿されます。また、AMSAT-NA、AMSAT-DL、そして
AMSAT-UKのウェブサイトにも掲示されます。最後に、AO-40の復旧
に関わった皆様には、その卓越した技術と不屈の精神に祝福を
申し上げます。そして、関係者の不断の努力が私達に衛星の稼動を
もたらしますように、、、

73,

AMSAT-NA会長
ロビン・ヘイトン VE3FRH

[情報提供に関し、ANSはAMSAT-NAに感謝します]
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